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過去問解説 平成27年 問16(民法~相続)

肢3と肢4が難しいです。

【問 16】 Aがその所有する甲マンションの301号室をBに賃貸していたところ、Aは死亡し、Aの配偶者C並びに子D及びEはいずれも単純承認した。この場合に関する次の記述のうち、区分所有法及び民法の規定並びに判例によれば、誤っているものはどれか。

3 遺産分割によってD及びEが301号室を持分各1/2として相続し、Aの死亡後遺産分割までに滞納した管理費の負担に関する合意がないときは、甲マンション管理組合の管理者Fは、遺産分割後において、Aの死亡後遺産分割までに滞納した管理費の全額をDに対して請求できる。
正しい。
遺産分割には遡及効があるが、遺産分割までの共有状態を否定するものではなく、被相続人の死亡後遺産分割までは301号室は、C、D、Eの共有状態にあり、管理費の支払債務は不可分債務であるから、連帯債務の規定が準用される。
したがって、管理者は、Dに対して滞納管理費の全額をDに対して請求することができる。

*民法430条
(不可分債務)
第四百三十条 第四款(連帯債務)の規定(第四百四十条の規定を除く。)は、債務の目的がその性質上不可分である場合において、数人の債務者があるときについて準用する。

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4 遺産分割によってEが301号室を相続し、Aの死亡後遺産分割までにBが滞納していた賃料債権の帰属に関する合意がないときは、Eは、遺産分割後において、Aの死亡後遺産分割までにBが滞納した賃料債権の全額をBに対して請求できる。
誤り。
遺産分割には遡及効があるが、遺産である不動産から生じる金銭債権である賃料債権は、遺産とは別個のものであり、相続開始から遺産分割までの間、当該不動産は共同相続人の共有に属するものであるから、各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得する。
この賃料債権の帰属は、後にされた遺産分割の影響を受けない(最判平17年9月8日(平成16(受)1222))。
したがって、Eは、遺産分割後において、Aの死亡後遺産分割までにBが滞納した賃料債権の1/4しかBに対して請求することはできない。

*民法909条
(遺産の分割の効力)
第九百九条 遺産の分割は、相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずる。
ただし、第三者の権利を害することはできない。

【解法のポイント】これは難問です。
遺産分割に遡及効がある(民法909条)ことだけから考えると、肢3も肢4も「正しい」となって、正解がなくなっています。
肢4の判例は知っている人は多くないのではないかと思いますので、間違えても仕方がないと思われます。

「遡及効」とは
【解説】
この遡及効については、刑罰法規については、法律不遡及の原則というのがありますが、ここでは民法に限定して説明します。

「遡及」というのは、「さかのぼって」という意味です。したがって、遡及効というのは、一般的には、過去にさかのぼって効力が生ずることをいいます。遡及効が生じる趣旨は、様々です。

遡及効が生じるもので、民法で遡及効が認められているものをまとめておきましょう。

1.取消しの効果(民法121条)
取り消された行為は、初めから無効であったものとみなされます。

2.無権代理行為の追認(民法116条)
無権代理行為の追認は、別段の意思表示がないときは、契約の時にさかのぼってその効力を生じます。

3.時効の効力(民法144条)
時効の効力は、時効が完成した時ではなく、その起算日にさかのぼります。

4.相殺の効力(民法506条2項)
相殺の意思表示は、双方の債務が互いに相殺に適するようになった時にさかのぼってその効力を生じます。

5.解除の効果(545条1項)
当事者の一方がその解除権を行使したときは、各当事者は、その相手方を原状に復させる義務を負うとされていますので、遡及効があります。
※解除の遡及効については、「解除」の項を参照

松本先生が動画で詳しく解説してくださっています。